“ビカクシダについて”にも述べたとおりビカクシダは着生植物です.このことを心にとめてしっかりと愛情を注いであげましょう.なおここではビカクシダ各種についての詳しい説明は避け,ビカクシダの一般的な栽培法についてよく園芸本に書かれている内容をまとめたものを紹介します.ビカクシダそれぞれの種類の詳しい栽培法については,“俺のビカクシダ”を参照してください(栽培中あるいは栽培経験のあるものだけ).

[置き場所]
 秋から春はできるだけ光線に当てるようにしますが,夏の直射日光は葉焼けを起こすことがあるので,よしずや寒冷紗などで半日陰にしてあげます.これは樹上生活をする植物を考えるとよく理解できます.乾季(冬に相当)には木々の葉が落ちて株全体に日が良く当たりますが,雨季(夏に相当)には木々の枝には葉が茂り,直射日光をさえぎります.と,こんな具合です.P.veitchiiなど通年直射光を好むものもあります.ですが,もし直射光下に置く場合でも徐々に強光線に慣らしていき,風通しのよいところに置くことが必要です.
 シダというと部屋の奥のほうの日陰でも大丈夫だと思われがちですが,やはり明るい方が強く育ち姿もガッチリします!ビカクシダも日陰でも十分育つと言われますが,「ビカクシダは疎林にしか見られない」といわれることからも,明るめの環境の方が好ましいでしょう.


[冬越し]
 ビカクシダは高温を好むので,気温降下の10月に入ったら室内に搬入します. 東南アジア・アフリカ地方の種類,またウィリンキーなどは温室,ワーディアンケースなどにとりこんであげる必要があります.最低気温12〜15度Cを保ち,水やりを控えれば問題はないでしょう.いっぽう,ビフルカツムやヒリーなどのオセアニア地方出身の種類は耐寒性が強く,乾燥状態にしておけば氷点下にならない(凍結しない)限り越冬しますが,最低5度はほしいところです.ビフルカツムの強健個体はそのぐらいの気温でも成長を続けるそうです(ビックリ).


[潅水]
 貯水葉の裏に根が生えています.その部分に水がかかるように与えますが,あまり回数を多く与えすぎないように注意します.いつもぐっしょりと濡れている状態だと,貯水葉が腐ってくるのが目に見えて分かります.かといって貯水葉が妨げになって潅水が不十分であると成長不良・枯死の原因になります.
 春から秋の生育期には植えこみ材の表面が乾いたらたっぷり与え,ほとんど生育が止まる冬は植えこみ材が完全に乾いてから与えます.カトレヤなどの着生蘭を栽培されている方は蘭の水やりの要領とほぼ同じですよ.ただ,ビカクシダは貯水葉のなかに貯水組織を持っているので,とくに厳寒期には水を与えないことが肝要です.
 一般的な園芸書には,よく「水を好む」とか「湿り気を好む」と書かれていますが,これは根もとの水分ではなく,空中湿度のことを意味しています. この点に十分気をつけてください. 空中湿度を高めるために,シリンジをこまめに行うなどすると良いでしょう.


[施肥]
 生育期に2ヶ月に1回,緩効性の化学肥料か油粕を団子状に固めて腐熟したものなどの置き肥を,重なっている古い貯水葉の裏側に与えます.鉢植えの場合は鉢の周辺に油粕を置肥してもよいでしょう.


[病害虫]
 生育期にカイガラムシが発生しやすいので注意します.発生した場合は歯ブラシでこすり落とすか,カルホスなどを散布し防除します.


[植替え・植え方]
 着生植物なので,ヘゴ材かヘゴ板,枯木などに付けてやるのが普通です.ビフルカツムなどの胞子葉が上出する種類では鉢植えもできます.
 ヘゴなどに付ける場合は,親株に発生した子ぶきをはずし,針金・ひもなどで結びつけて活着したら取り外します.大型種は自重で落下する場合があるので株をしっかりと結び付けておくとよいでしょう.鉢植えの場合,使用鉢は4〜8号鉢ぐらいで株の大きさに合わせます.鉢ガラを十分入れ,木炭を芯にしてミズゴケ,オスマンダなどで植えこみます.つりしのぶのように木炭,ヘゴ角を芯にミズゴケで球を作り周囲に2,3株の子株きをつけて草玉とするのも面白いですね.
 株が次第に小さくなって栄養葉や子株もほとんど出ないのは,水が多すぎて根腐れを起こしたためで,植え替えが必要です.


[繁殖]
 ビフルカツム,ウィリンキーは根の先に不定芽を生じやすく子株がたくさん出るので,貯水葉ごと株分けして植え込むかヘゴ板につけるなどします.貯水葉・胞子葉ともあまり生育しないうちに分離すると,以後の生育が悪いので注意する.  株分けのほかにも,シダ植物なので胞子繁殖が可能です.東南アジアの方の大型種のように子株の出にくい種類の繁殖は胞子によります.ただし,ビカクシダの胞子からの繁殖には長い時間(数年)がかかります...途中で投げ出さないよう心して取り組んでみてください.

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