ビカクシダとその記載論文

たとえば「アンゴレンセ」と「エレファントティス」どっち?みたいな、ビカクシダの学名について気になることがあって記載論文を見てみたいと思い、図書館に複写依頼できるのかどうか以前から気になっていました。いかんせん年代が古いものばかりで見つかるのかどうかもわからないし、しかも記載ページ数が書かれていないものもなどはまるごと1冊コピーしないといけないのかなぁと悩んだり。

それで今回、なぜかこれまでやったことがなかったネット検索をしてみたら・・・、なんとけっこう見つかるではないですか!しかもPDFでダウンロードまで出来てしまう!!というわけで、金曜の夜から夜なべして発掘作業をしていました。目の下、はれてます(笑

 

Platycerium alcicorne Desv.
 -- Mém. Soc. Linn. Paris 6(3): 213. 1827
   Prodrome de la famille des fougères
Platycerium alcicorne Gaudich.
 -- Voy. Uranie, Bot. 307 et auctt. 1828 [27 Dec 1828]
Platycerium alcicorne (Willem.) Tardieu
 -- Notul. Syst. (Paris) 15: 417, t. 1(1-2) (non Desv.). 1959.

Platycerium andinum Baker
 -- Ann. Bot. (Oxford) 5. 496. 1891.
   A Summary of the new Ferns which have been discovered or described since 1874
 -- Christ, Hedwigia 44. 363. 1905.

Platycerium angolense Welw.; Bak.
 -- Syn. Fil. (Hooker & Baker) 425, in adnota 1868.
sym. Platycerium elephantotis Schweinf.
 -- Bot. Zeitung (Berlin) 29: 361, fig. 1871.

Platycerium bifurcatum (Cav.) C.Chr.
 -- Index Filicum 1857.
Platycerium bifurcatum (Cav.) C.Chr.
 -- Index Filic. 496. 1906.
Platycerium bifurcatum subsp. bifurcatum Hennipman & M.C.Roos
 -- A monograph of the fern genus Platycerium (Polypodiaceae) 1982.

Osmunda coronaria Konig; Mull.
↓ -- Naturforsch. Halle 21. 107 t. 3. 1785.
Platycerium coronarium (Konig) Desv.
 -- Mém. Soc. Linn. Paris 6(3): 213. 1827
   Prodrome de la famille des fougères

Platycerium ellisii Baker
 -- J. Linn. Soc., Bot. 15: 421. 1876.

Neuroplatyceros grandis Fée
| ↓ -- Mém. Foug., 2. Hist. Acrostich. 103. 1845
| Platycerium grande (Fée) Kunze
|   -- Linnaea 23: 274. 1850.
↓     参考資料:Kunstformen der Natur
Platycerium grande (Fee) C.Presl
 -- Epimeliae Botanicae 1851.

Platycerium hillii T.Moore
 -- The Gardener's Chronicle ser. 2, 10 1878.

Platycerium holttumii Joncheere & Hennipman
 -- Brit. Fern Gaz. 10: 116, f. 1-3, t. 12. 1970.

Platycerium madagascariense Baker
 -- J. Linn. Soc., Bot. 15: 421. 1876.

Platycerium bifurcatum (Cav.) C.Chr. var. quadridichotomum Bonap.
↓ -- Not. Pterid. 4: 84. 1917.
Platycerium quadridichotomum (Bonap.) Tardieu
 -- Notul. Syst. (Paris) 15: 420, t. 1(3-5). 1959.

Platycerium ridleyi Christ
 -- Ann. Buit. II. Suppl. III. 8 t. 2. 1909.

Acrostichum stemaria P.Beauv.
↓ -- Fl. d'Oware 1. 2 t. 2. 1804.
Platycerium stemaria (Beauv.) Desv.
 -- Mém. Soc. Linn. Paris 6(3): 213. 1827
   Prodrome de la famille des fougères

Platycerium superbum Joncheere & Hennipman
 -- Brit. Fern Gaz. 10: 114, f. 4, 5. 1970.

Platycerium veitchii C.Chr.
 -- Index Filicum 1857
Alcicornium veitchii Underw.
 ↓ -- Bulletin of the Torrey Botanical Club 32 1905.
| Platycerium veitchii (Underw.) C.Chr.
   -- Index Filic. 497. 1906
Platycerium bifurcatum (Cav.) C.Chr. subsp. veitchii (Underwood) Hennipman & M.C.Roos
 -- Monogr. fern genus Platycerium (Polypodiac.) 91. 1982.

Platycerium wallichii Hook.
 -- Gard. Chron. 1858. 765.

Platycerium wandae Racib.
 -- Bull. Int. Acad. Sci. Cracovie 1902. 58.

Platycerium willinckii T.Moore
↓ -- Gard. Chron. n.s., 3. 301 f. 56. 1875.
Platycerium bifurcatum (Cav.) C.Chr. subsp. willinckii (T.Moore) Hennipman & M.C.Roos
 -- Monogr. fern genus Platycerium (Polypodiac.) 92. 1982.

そのほかの名前

Platycerium vassei hort.; Rev.
 -- Horticole 1910. 530;

Platycerium diversifolium Bonap.
 -- Notes Pteridol. 4. 84. 1917.

Platycerium wilhelminae-reginae Alderw.
 -- Bull. Dépt. Agric. Indes Néerl. 18: 24, t. 6-7. 1908

 

以上は、「現在一般的な名前」からに過去に遡っていくかたちで記録を追っています。木に例えるとするなら、「葉から根本に向かっている」ようなイメージです。なので、実は他に知らない枝が存在するかもしれません。具体的には、ステマリアやビーチーのところで「Acrostichum」「Alcicornium」といったヘンな属名が登場しています。これは、ビカクシダが「Platycerium」になる以前の名前だったり、別の名前に変えられたことがある痕跡だったりします。とくにビーチーはすごいなと思ったんですが、まずC.Chrさんが「Platycerium veitchii」と発表したのを、Underwoodさんが「やっぱ Alcicornium veitchiiだべ」ていって、翌年にC.Chrさんが「は?何いってんのそれPlatyceriumだから」と戻したぽいことが名前の変遷から見てとれます。後に Hennipmanさんと M.C.Rootsさんが「bifurcatumのsubsp.ってことでファイナルアンサー」しちゃってます。C.Chrさんはもうご存命ではないでしょうから・・・。もし C.Chrさんがご健在なら、やっぱまた名前を戻したかどうか?けっこう強い心の持ち主だったんかなあ etc... 中身をちゃんと読んだわけではないのであくまでも妄想です。妄想にしてもちょっと”過ぎる”感じですが。でも、なんか、そんな妄想、面白くないですか?

でも、やっぱり気になるので Underwoodさんの書いてることを読んでみました(英語苦手なのでざっくりと)。学名システムの問題点(?)や命名の経緯や優先順位について記されていて、なるほどUnderwoodさんの言い分は正しい、って思えることことが書かれています。Underwoodさんは真面目な胸熱なひとっぽいです。ちょっと誤解してました。・・・この辺、また別の機会にでも。

1800年代初期にはすでに stag-horn fernと呼ばれていたみたいです。日本では明治後期にはすでにコウモリランと呼ばれていました。大正には”ビカクシダ”も使われていたことがわかっていますが、どちらが先に使われはじめたかなどはまだはっきりしていません。いずれにしても長い間使われてきている名前。やっぱり土着の名前というのは、耐久性もあって、愛着も持てて、いいものですね。

はじめは軽い気持ちで学名命名周辺を調べ始めたのですが、とんでもない深みにハマってしまった感じ。

 --- 5/20 追記↓

と、いろいろ調べているうちに、学名の歴史や記載論文記述の難しさを思い知り、プロ研究者のビカクシダに関する仕事っぷりを目の当たりにしたりして、知恵熱出てきました。記載論文と標本の対応も???で、もう基本的なところが分かっていなさすぎて、あぁもうグッタリ。

以上、いろいろありますが、

象さんは Platycerium angolense じゃなくて Platycerium elephantotis だね。やっと納得できた。

っていうここ一週間を経ての感想です。

(もうかなり以前で

(もうかなり以前ですが、植物の集まりで「あの学名はあーでもないこーでもない」と歓談していたところ、西の御仁M氏が「記載論文読んでタイプ標本見て、学名の議論はそれからですよ」とコメント。当時のみなさん「・・・(ky)」てなふうで自分もそう思っていたんですが、M氏の言ったことの意味がやっと分かったです。あと、これはちょっと前ですが、東の超プロの方にも「まぁ、せいぜい(植物趣味を)楽しんでください(微笑」とのお言葉をいただいたことがあって「へ?・・・はぁ、楽しませていただきます(微笑返し」てこともありましたが、そうですねぇ、たしかに仰るとおりでございます。うーん、世の中って・・・)